くらんけコラム

このままでは衰退し続ける「DTM」シーン。それを食い止める施策を考察する。

今朝Twitterを眺めていると、音楽制作クリエーターで著名ブロガーでもある「ゆにばす」さんのツイートが流れてきました。


「DTMer(主にPCで音楽制作を行う人のこと)って、大谷投手の2刀流ならぬ何刀流だよ!」なんて、ゆにばすさんならではの切り口が楽しいツイートですが、筆者・くらんけも常々、同じ思いを抱いていました。

求められる素養の領域が極めて広い創作趣味「DTM」の現状。

今日の音楽制作を行うクリエーターは、とにかく「やるべきこと」が多すぎます。

「作曲・編曲」など楽曲制作作業、「ミックス・マスタリング・CD制作」などエンジニアリング作業、アーティストによっては「楽器演奏・歌唱」、そして「楽曲共有サービスやSNSへのアップ」。。

これはもちろん、一人で全ての関連作業を行えるDTM(デスク・トップ・ミュージック)の美点の裏返しって事はわかってますよ?

それにしても、私たちに課せられる「作曲」以外の部分の負担が重すぎる。

そう、今の音楽制作クリエーターは、一人でなんでも完結できる便利さと引き換えに、肝心かなめ「作曲」にフォーカスできていない可能性があります。

誤解を恐れず言わせてもらうと、私たちが注力すべきはもっぱら「曲作り」であり、「エンジニアリングに凝る事」ではないはずなんです。

今のDTMは、あらゆる創作活動の中でも敷居が高い。

現在、クリエーターが曲作りのための全作業を一手に引き受けなくてはならなくなった要因は、高度に発達を遂げているPC上で動作する音楽統合ソフトウェア「DAW」(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の存在が大きいと思います。

具体的には、LogicやCubase、StudioOne、Ableton Liveといった製品ですね。

これら今日のDAWは、前述した全ての目的を果たすための機能が集約・統合されていて、性能や機能も進化し尽くされているので、今では自宅のPCでプロのレコーディングスタジオと全く同じ作業を行えます。

くらんけは、このDAWの進化こそ、皮肉なことに今のDTMが極めて敷居の高い創作活動になってしまっている要因だと思うんです。

昔は「テレコ」だけで曲作りを十分楽しめた。

いうまでもないことですが、昔からアマチュアによる音楽制作シーンは非常に盛んでした。

ギターやマイクを片手に自宅で曲作りを行い、カセットレコーダーやMTRといったハードウェア機材に伴奏や歌を吹き込んで、今はもう死語かもしれませんが「自宅録音」(宅録)で曲作りしていたのです。

この場合、音楽制作に必要な道具は「ギター(楽器)」「マイク」「レコーダー」の3つだけ。

それゆえアーティストは作曲そのものにフォーカスでき、テクノロジー未発達の時代においても、あれだけの名曲が生まれたのかもしれません。

そして、もし曲の表現力を高めたければ音をよくするためのエフェクターが必要ですし、リズムマシーンやシンセサイザーといった音源、それらを自動演奏させることができるシーケンサーなど、「持ち札」を拡張したくなのが人情というもの。

昔のアマチュアによる音楽制作「宅録」シーンは、アーティスト自らのレベルや要求に合わせて、そうやって少しずつ機材を揃えていけたのですね。

繰り返しますが、アーティストの身の丈にあった環境で、ひたすら曲作りにフォーカスできていたのです。

今のクリエーターは「無数の道具」だけを、ポンと渡された状態。

一方、現在の音楽制作統合環境「DAW」における曲作りはどうでしょうか。

録音機材「レコーダー」は、テープレコーダーから始まりMTRへ。やがてMDマルチが登場し、すぐにハードディスクレコーダーへと進化。最終的には、PC上で動作するDAWの一機能に収まっています。

リズムマシーンやシンセサイザーといった音源もソフトウェア化が進み、こちらもDAW上で演奏できるようになりました。

もちろん、シーケンサーで演奏情報をプログラミングすることなんて、DAWにとってはお安い御用。

リバーブやディストーション、コンプレッサーといったすべてのエフェクターも、全てDAWに揃っています。

このようにDAWには、全ての音楽制作に関わる道具が、最初から備わっているんですね。

最近では、DAWもずいぶんお求めやすくなりましたし、今の若いクリエーターは整った環境で幸せなように見えますが、反面「一体なにから始めれば良いのだろう?」と、戸惑っていることでしょう。

初心者にとって今のDAWの多機能さは、絵画の世界に例えると「ミュージアムの天井まで届く巨大なキャンバス」に対し「1万種類の絵筆」と「100万色の絵の具」から、好きなものを選んで描き始めなさい…と、言われているようなもんでしょう。

どれだけ自由度があっても、一体何から手をつけて良いやらわかりませんよね。

DTMは「格闘ゲーム」と同じ道を歩んでいる。

1990年代において、街中のゲームセンターで「格闘モノ」というゲームジャンルが流行りました。

「ストII」や「バーチャファイター」「鉄拳」といった作品ですね。

学生からサラリーマンまで、あらゆる層に愛された格闘ゲームは一応健在ですが、あまりにもグラフィックやテクニカル面で高度に進化し過ぎた結果、今は一部のマニア以外誰も手出しできません。

その結果、かつてゲームセンターの花形コンテンツだった対戦格闘モノは、その座をすっかりUFOキャッチャーやメダルゲームに明け渡してしまいました。

そんな格闘ゲームと同じ末路を、くらんけは「DTM」にもほの見えてしまうのです。

参入ハードルが極めて高い創作趣味「DTM」。このままだとジリ貧必至。

前置きが長くなりましたが、ここまで述べてきた「全部載せDAW」の現状をふまえつつ、筆者くらんけがDTMに関わるすべてのハード/ソフトメーカーに伝えたいことがあります。

それは、DTMに触れたことのない初心者が、より音楽の世界へ気楽に飛び込めるような環境を整備してあげないと、業界全体の衰退が止まらなくなるのでは?という危惧です。

この記事で散々述べてきましたが、今の音楽制作統合環境DAWは高度すぎて、とても初心者が手を出せる代物ではありません。

CDが売れなくなって久しく、スマートフォンでのコミュニケーションなど娯楽が多様化する中で、音楽制作はおろか音楽自体の影が薄くなってきている昨今。

ただでさえそんな状況なのに、初心者…特に若者たちがこぞって「音楽制作を始めてみよう!」とする光景が、くらんけ的にはどうしても想像できません。

若者のDTM離れ…ひいては作曲離れにつながらないよう、もっと若者・初心者がカジェアルに音楽制作を楽しめる環境を、各メーカーは本気で模索すべきです。

「DTM離れ」に歯止めをかけるための(ささやかな)3提案。

では、どうすればDTM周りの衰退を食い止めることができるのでしょうか?

これは業界全体が考えねばならないほど極めて難しい問題ですが、くらんけなりに無い知恵を絞って考えてみました。

案1「DTMのカジュアル化」

第一に、今の「超マニアック」で「難しすぎる」音楽制作趣味・DTMのイメージを払拭すべく、初心者にも楽しく、親しみやすいプロダクトを矢継ぎ早に投入することです。

具体的には、一番身近な「スマートフォン」での音楽制作体験を、じゃんじゃん提供するのが良いと思います。

この分野では、日本の老舗楽器メーカー「コルグ」がリーディングカンパニーといえ、Androidにも対応している片手でダンストラックが作れるアプリiKAOSSILATORや…

EDM制作に特化したELECTRIBE Waveなど、先進的で魅力的なプロダクトを次々と生み出しています。

くらんけが気になるのは、柔軟なIT対応でガンガン攻めまくっている「コルグ」に比べ、もう一方の国内陣営「ヤマハ」と「ローランド」が、どうにもスマホ対応に及び腰な点。

ヤマハについては「テノリオン」(TNR-i)という、極めてユニークなiOSアプリをリリースしているのですが…

もっともっと、ユーザーフレンドリーなプロダクトをたくさん開発してほしいですね。

海外勢に目を向けると、スウェーデンのAllihoopa社が開発した、片手で簡単にお洒落トラックが作れるiOSアプリFigureも面白いですよ。

これらスマートフォンによる音楽アプリは、このところ少しずつ充実して来ているので、今後とても楽しみな分野です。

案2「自動プラグイン導入」など製作者の負担軽減策

従来型のDAWにおいて、くらんけが最も深刻だと思うのが、高度に発達した多機能さゆえ「曲作り以外の作業」に膨大な労力を取られてしまう点です。

プロのエンジニアでも難しいとされるミックスやマスタリング作業を、素人がどうこうできる問題ではありませんし、エネルギーの無駄遣いだと思います。

そんなエンジニアリングの世界にも、昨今ようやく自動化の波が押し寄せてきました。

たとえば、AIが搭載された自動ミックス・スイーツNeutronと…

自動マスタリング・スイーツOzone8

image: https://www.izotope.com/

いずれも、米・iZotope社製のプラグイン・ソフトウェアです。

あとは、レバーをぐいっと上げるだけで、たちどころにが音圧を持ち上げてくれる自動ラウドネス・マキシマイザーDeeMaxなども、私たちクリエーターからすると実に不毛な「音圧稼ぎ競争」から解放してくれます。

image: https://dotec-audio.com/

これらの自動エンジニアリング・ツールは、クリエーターにとって貴重な「時間」と「負担軽減」をもたらし、計り知れない恩恵を得ることが期待できるので、今後ますますの発展を期待したいです。

案3「クリエーターのスキルに合わせた機能拡張」

そろそろ、どのDAWでも横並びな「全機能全部載せ」を中心とした従来の製品ラインナップを考え直す局面かもしれません。

無論、プロやハイアマチュア向けの「フルバージョン」は絶対に欠かせませんが、今日は別のアプローチを提案したいと思います。

冒頭紹介したブロガー「ゆにばす」さんも語っているように、DAWに「機能拡張」という概念を設けることです。

これは、あらかじめすべての機能が提供される昨今のDAWとは逆行する発想ですね。

以下、くらんけが考えたモデルです。

・音楽制作を行うために最低限必要な環境、たとえば「シンプルなシンセサイザーとリズムマシン」「単純なシーケンサー」「簡単なミキサー」の3モジュールだけを、レゴの基本セットのように提供し、フリーで配布する。

・ユーザーは、このシンプルな制作環境で曲作りの楽しさを実感し、自分の好みや目的に応じ、自らが必要だと思うモジュールを買い足していく。

・もし歌入れをしたくなったら「レコーダーモジュール」、歌にリバーブを使いたくなったら「リバーブモジュール」…といった具合に、自分が必要な要素だけを追加していく。

このようにユーザー自らの意思で機能を追加していけば、昨今のDAWのような「この機能なんだ?わけわからん。」といったことは起こりえません。

なお、このモデルに近い施策を実際に行なっているのが、iOS音楽制作アプリ「KORG Gadget」および、その無料体験版「KORG Gadget Le」

KORG Gadget Leに搭載されているのは「3種類の音源(2シンセ1ドラムマシーン)」と、音源を演奏させるための「シーケンサー」、それに「3つのトラック」のみ。

しかしたったこれだけでも、立派なダンスミュージック・トラックを作ることができるんですね。

Leだけで、どれだけクォリティーの高いトラックを作れるのかを追求する、作曲を行うことにのみにフォーカスする鑑のようなユーザーもいらっしゃいますよ。

そしてKORG Gadgetに課金すれば「3トラック」などの縛りが解けるなど基本スペックが解放され、扱える音源も増えます。

それだけにとどまらず、さらに魅力的な音源や「マキシマイザー」などに追加課金して、自分の環境を好きなだけグレードアップしていくことができるんですね。

くらんけは、こんなユニークなビジネスモデルを現在主流の全部載せDAWに対する「粋なアンチテーゼ」と受け取めているですが、いかがでしょうか?

今日の処方箋

  1. 今の音楽制作クリエーターは、作曲以外の労力をかけすぎです。
  2. 超マニアックなDTM業界全体が早急に手を打たないと、確実に衰退するでしょう。
  3. 衰退を食い止める手立てとして、くらんけ.jpでは「DTMのカジュアル化」「機能の自動化」「機能拡張化」を提案します。

本日のカルテは、ここまで。

今のクリエーターは、最初から山のような可能性と対峙しなきゃいけない。幸せなことだけど、かわいそうなことだなあ。。

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コメント

    • バカラック
    • 2019年 1月 09日

    まさにその通りですね。
    うんうんと、うなずきながら拝読させて頂きました。

    DTMって、音楽好きだから始めたはずなのに、
    いつのまにか機材選びに時間を費やして機材オタクになってたり、
    ソフトウェア音源やプラグインがたくさん入ってることが嬉しくなったりして(笑)、
    ベクトルが別の方向に向かいがちですよね。
    オトコの性ではあるのですが。。。

  1. 2018年 9月 12日

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